橈尺骨骨折は現在の小動物臨床では最も多く遭遇する骨折ですが治療が難しい骨折の一つだと思われます。小型犬、特にトイ犬種と呼ばれる超小型犬の橈骨はとても細くデリケートなので術後に骨萎縮が起こってしまったり、変形癒合や癒合不全をおこしてしまう症例が少なからず存在しました。
 当院では現在、トイ犬種の橈尺骨骨折症例に対しフロートプレート法という術式を採用し良好な結果を得ています。フロートプレート法は当院の米地院長が考案した術式です。従来のプレート法と創外固定法の利点を合わせた術式で良好な生物学的癒合を得ることが可能です。

トイ・プードルの橈尺骨骨折

       

 フロートプレート法では、このようにプレートを橈骨から浮かせて設置します。プレートを骨から浮かせて設置することは通常のプレート法よりも技術的な難しさがあるのですが、このように設置することで様々なメリットを得られるようになります。
 プレートが骨から浮いている(float)のでフロートプレート法と名付けました。
 こちらは標準的なプレート設置法です。プレートと橈骨に間の隙間はありません。またスクリューとスクリューの間は等間隔でフロートプレート法のような隙間はありません。このように設置しても多くの場合で臨床的な問題になることはありませんが症例によっては術後の骨吸収が強くでて驚かされることがありました。  
 骨は生きている組織であり二種類の方法で栄養を得ています。骨膜血行と髄内血行です。右図の黄色い線が骨に栄養を供給している血管を示しています。骨の周囲から栄養を渡すのが骨膜血行で骨髄から骨に栄養を渡すのが髄内血行です。
 骨の上に金属のプレートを置いてしまうと骨膜血行が遮断されてしまうのでどうしてもプレート下骨の状態が悪くなってしまいます。右図ではプレートの下の骨には骨膜血行が届いておらず骨の表面が変色しています。
 フロートプレート法ではプレートが骨から浮いているため骨膜血行の障害が最小限です。骨の周囲には全周で骨膜血行が温存されておりプレート下骨の虚血性変化を防ぐことができるようになりました。
 骨から浮かすためにプレートはロッキングプレートを使用する必要があります。
 手術時の写真です。 プレートは橈骨から浮いた状態で設置されています
 術後の外観です。プレートは皮膚の下に設置されているので皮膚縫合してしまうと外からは見えません。術後は2-3週間ロバートジョーンズ包帯を設置し、激しい運動は控えてもらいます。多くの場合でケージレストをお願いしていますので患者家族には自宅でのケージを準備してもらいます。
 経時的な術後経過をレントゲン写真で示します。
 骨折端には旺盛な化骨増生が認められるようになり(左から3番目)、次いでリモデリングによって骨は少し細くなりますが骨折前よりは太い状況です(一番右)。このリモデリング期になるとプレートを除去することができます。多くの場合でフロートプレート法ではプレートの段階的抜去は必要ありません。
 プレート除去時の写真です。プレート除去は日帰り手術です。プレートを除去した後、二週間程度ロバートジョーンズ包帯を設置して治療終了です。


□症例
□トイ・プードル、雌、8ヵ月齢
□体重1.8㎏

□落下事故により左橈尺骨骨折
□左橈骨遠位1/3単純横骨折、尺骨も同一で骨折

□8ヵ月齢ですが成長板は閉鎖していました
□ストレートタイプロッキングプレート8穴
□直径1.5mmロッキングスクリュー×5本
□骨折端領域にはスクリューを設置せず3穴の空ホールをつくり、骨折端に微細な動き(マイクロモーション)がかかるようにします
□術後の写真を拡大したものです
□プレートは橈骨の外側ラインに合わせて設置しています
□側面像では橈骨とプレートの間に隙間があります

 プレート設置時の術中写真
□術後50日
□骨のアライメントは良好でインプラントのゆるみもありません
□歩様も良好です
□術後50日のレントゲン写真を拡大したものです
□正面像でも側面像でも旺盛な化骨増生が認められ骨折部の骨が太くなっています
□このような化骨増生は通常のプレート法では見られない状況であり、創外固定法を実施した症例に似ています
□尺骨はまだ骨増生が認められていません
□術後78日目でインプラントを除去しました
□骨のアライメントは良好であり理想的な癒合状態です
□本例のように化骨増生が旺盛な場合はインプラントの部分抜去は必要なく、インプラントは一回で全て除去します
□術後78日のレントゲン写真を拡大したものです
□うっすらと骨折ラインは残っていますが皮質骨の連続性が認められており骨癒合と判断しました
□術後50日目と比べると増生化骨が縮小したこの状況をリモデリングといい、生物学的癒合が得られたことが分かります
□尺骨も癒合しかけています
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